蜜月まで何マイル?

    “傍に居るほうが…?”
 



親しい人たちや、育んでくれた地から離れ、
風に押され、故郷から旅立って、もうどのくらいになるのだろうか。
グランドラインでの再びのレッドラインへの到達は、
理屈上 地球を半周したことになるという。
途中、先へ行くにはどうしても必要だからと、
各々でその身その腕を磨いた2年を挟み、
集結し直した仲間たちは、
懐かしい笑顔はそのままに、それは頼もしい存在となっており。
ますます苛酷になるという“新世界”への突入を、だが、
何の憂慮もなく、ますますのワクワクを抱えて突き進む、
我らが麦ワラのルフィ一味とその船だった。



      ◇◇◇


船が大きくなるとそれだけ安定を得るので、
航海中とあって稼働している船の揺れも、
舳先が掻き分けている波の音や帆をはたく風の音も、
クルーたちの耳目へ直には響かぬそれとなる。
本来ならば 人が立つこと自体が不可能な海原の上だ、
擦り寄って来て当然のそれらを疎むものではないけれど。
眠るときくらいは静かであってほしいし、
こちらの接近を、思わぬ海王類なぞに知られる危険も出来れば避けたい。
星降る夜は静かに過ごすのが、どの方面へも安寧というものであり。
大きな船体が悠然と突き進んでいても、
波を蹴立てる響きはさざ波のそれという、とても静かな航海だったので。

 「…………。」

見張り台以外の船室に眠る面々の寝息も、
それは穏やかな代物であり。
日中のどたばたの余韻もないまま、
夜陰の垂れ込める静かな夜の底、
深く静かに漂っていた面々で。

 「…………、…。」

そんな中の気配が一つ、
ふと、寝息の調子を引っ込めると、身じろぎを始め。
それから、

 「   ……。」

ぽかりと目を覚ましても、しばらくほど ぼんやりとしている。
意識の方は目覚め切ってはいないのか、
だが、それにしては見開かれた双眸は
いやにはっきりと天井を見据えており。
それが、ほんの数刻ほどすると、
今度はふにゃりと萎えての、そのまま。
口元をほころばせ、
ふふと困ったように笑いをかみ殺しているので、

 「……どうしたよ。」

こんな夜中に眸を覚ますこと自体が珍しいと。
すぐの間近にいた、臥寝の相棒が潜めた声をかけてやれば。
小さな船長、今は帽子を乗っけていない真ん丸な頭を
剣豪さんの懐ろの中で もそごそと動かしてから。
ぷはぁっと顔を上げると、
雄々しい胸板へあごの先をくっつけるようにして仰向いて、

 「うん。大したこっちゃねぇんだけどもな。」

それにしては、
窓から差し入る月光に照らされる中、
それと判るほど“にしし”と笑い、

 「何つーのかな。
  離れてたときは、こんな風に目が覚めても、
  島の中にはレイリーとそれから他の獣の気配しかなかったし、
  それで良かったんだのに。」

他の面々から訊かれた折々に少しずつ、
自分がいた島や修行の話も聞かせてくれる船長さんであり。
とても短いスパンで四季が回る慌ただしくも厳しい島に、
あの冥王と居て、修行に明け暮れた彼だというのはゾロも知っている。
どんな文明もあっさり沈下させたほどの天恵にあふれた地には、
それは獰猛な獣も多数おり。
ルフィに備わっていた“覇気”を研ぎ澄ますには
格好の習練の場でもあったというが、
常人には住むこと不可能な土地だったし、
それより何より、

  仲間は皆、世界中に散らばってしまっていたから

すぐ至近になんて居るはずがないから、
どうしているものかと遠い相手を想うしかなくて。

  ところが…今は、
  当たり前の話だが、ちょこっと勝手が違うなぁと。

ひょんな折々に気づかされては
嬉しいの笑いが込み上げてしょうがない。
特に目覚めるときなぞは、
一番警戒しなくちゃいけないという基本は
そもそも“さておいて”だったとはいえ。(おいおい)

  何かにくるまれてるのに気がついて、
  誰かの温みや匂いだと気がついて。
  頬を埋めている堅い感触が、
  誰かの胸板なのだと気がついて、それから…

人といやレイリーしか居ないはずなのになぁ、
気配が違うなぁって、どんどん頭が覚めてゆくにつれ、

 「それが ああゾロだっけ…って気がついたらサ。」

そこまで言ってから にまぁっと改めて微笑って見せると、
潤みの強かった眸を嬉しそうにたわめつつ、

 「何でだろうな。
  顔がにやけちまってなかなか収まらねぇんだ、これが。」

 「……………っ☆」

言いながら、これが見本だと言わんばかり、
嬉しいを目いっぱい頬張った、
満面の笑顔でいる船長さんであり。

 「居ないって判ってるときは、
  目の前に忙しいが山積みだったせいもあったけど、
  遠いことを寂しいと思い出しもしなかったのにな。」

今は こ〜んな間近にいるんだ、安心すりゃあいいのによ、と。
そんな言いようをペロッと言ってのけてから、

 「変だよなぁ。嬉しいのに落ち着けねぇ。」
 「…………それはな。」

珍しくも煥発入れずに何か言い掛かったゾロが、だが、

 「〜〜〜〜〜何でもねぇ。」
 「何だよ、何か言いかけたじゃねぇか。」

忘れたと、耳まで真っ赤になった剣豪だったのが、
手に取るように判ると思いつつ、

 「ありゃあ、忘れたんじゃねぇな。」
 「馬鹿よねぇ。最初から言わなきゃいいのに。」

 傍に居ない間は 遠くに居る君を想うだけでよかったが、
 居るはずのものが居ないと不安になるってもので。
 だから、居るとほっとして嬉しくなるのだと、
 そういうところを言いたかった剣豪さんなんだろうなぁ…と

そこまでを見透かされての、かてて加えて、

 「見晴らし台で居眠りはよせと。」
 「今それをわざわざ言いに行くのは野暮だぞ、フランキー。」
 「伝声管の蓋をしとけってのはどうだろか。」
 「一緒だって。」×@

さすがはフランキー謹製のあれこれで、性能がいちいち良すぎるらしく。
誰も居ないってのに、
尚の用心からか、単に眠かったからか、
こそこそと小声で囁き合ってても無駄だったらしいです。


  お月様も苦笑が絶えぬ、
  そんな静かな宵の口のお話でした。




   〜どさくさ・どっとはらい〜  2012.08.19.


   *お約束のオチですいません。(笑)
    まださほど遅い時間じゃあなかったらしいです。
    ウチの船長は
    夜になると睡魔にあっさり攫われる
    本当に困ったちゃんですんで。(大笑)
    それはともかく、
    ロマンチックって何? どこで食べられるもんなの?
    おばさんには縁遠い話ですじゃ、ホンマに…。(こらー)

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